サイトメガロウイルス感染症つづき(2/2)
<腎移植後>
- 成人においても抗 CMV 抗体が陰性の患者も多く,そのため初感染になり重症化しやすい
- 免疫抑制薬が強力になり,CMV 感染症にならずとも, 約半数が CMV 感染を起こす
- 治療では経口薬であるバルガンシクロビル (VGCV)が保険適用になった
- CMV は広い臓器親和性をもつことから,さまざまな臓器に持続感染し,慢性的あるいは潜伏感染のかたちで終生,体内に存在する.腎移植の場合は移植腎とともにレシピエントに伝播する場合,またもともとレシピエントの体内に潜伏している CMV がなんらかの誘引によって再活性化する場合がある.
- 腎移植患者では,同種免疫反応と免疫抑制の両方が関与しているため CMV の再活性化が起こりやすい状態にある.
CMV 感染症の定義
- CMV 感染症は CMV 感染をウイルス学的に証明し,さらに下記❶の臨床症状を加えた❷の 9 項目中 1 項目以上認められることと定義される.
- 移植後 CMV 感染症の診断において,血清中抗 CMV 抗体価の測定は採血時期の感染症の診断意義はなく,血中ウイルス培養も時間がかかることと感受性が低いことから臨床的に有効性が低い.
- 一方で,移植前にドナーとレシピエントの血清中抗 CMV 抗体価の測定は移植後 CMV 感染症の発生頻度や時期の予測に有用であることから強く勧められる
- CMV 抗原を検出する CMV 抗原血症法(CMV アンチゲネミア法)や real-time PCR 法を用いた DNA 血症の検出が,現在のところ,最も CMV 感染症の診断や治療効果の判定にすぐれている。一方で,CMV 腸炎や網膜炎のように血中の CMV 抗原やウイルスゲノムが検出されにくい病態では,CMV 感染細胞の有無を感染していると考えられる臓器の生検を行い免疫組織学的染色や in situ hybridization によって同定することが唯一の診断法となることがある.
1.CMV 抗原血症法(CMV アンチゲネミア法)
<治療終了の判断>
- 抗ウイルス薬の治療期間は最短で 2 週間必要とされている.
- 治療終了の判断は,抗原血症法による検査が 2 回陰性化したことを確認すること,もしくは陰性となってから 1 週間治療後の終了が望ましい
- 初回検査で腎移植によって CMV の初感染を受けると考えられる組み合わせ(ドナー既感染 レシピエント初感染:D+/R-)においては,再検のうえ,レシピエントは移植後,初感染期を経て既感染(治癒)に至る過程を定期的に f/u する必要がある.
- 一方,移植前 CMV 感染 status が既感染の症例においても,免疫抑制療法により,移植後再活性化(再起感染)が起こりうるので定期的な経過観察を行うことはやはり必要である
- 通常,体内における CMV 感染の activity は抗原血症法で評価し,ELISA 抗体価は 1ヵ月に 1 回チェックする.
- 胸部 CT 検査は,CMV 間質性肺炎の初期像を最も鋭敏に捉える。腎移植レシピエントは移植前に他の感染性疾患,悪性疾患の評価も兼ねて,全例胸部 CT を撮影,評価しておくことが望ましい.
- 初感染例では,CMV 抗原血症検査が陽性化した時点,CMV disease 症状が発現(発熱)した時点で胸部 CT を行うことが望ましい.
- 初感染・既感染を問わず呼吸器症状が発現した場合は 全例で躊躇せずに胸部CT を実施する.
- 初感染・既感染を問わず CMV tissue invasive disease においては,組織学的診断を行うことが推奨されており,気管支肺胞洗浄液,消化管内視鏡における組織片の診断は価値がある.
<CMV腸炎、潰瘍>
・CMV 感染では胃十二指腸潰瘍が比較的高率に起こる.
・ヒスタミン H 2 受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬にても難治性の胃十二指腸潰瘍は CMV 感染による潰瘍を疑う.
<眼底検査>
- レシピエントは移植前に全例,眼底検査を行っておくことが望ましい
- 発症部位によっては,初期には自覚症状に乏しく発見が遅れる場合がある.特に初感染例では CMV 抗原血症検査が陽性化した場合は必ず眼底検査を実施する
- 網膜炎では CMV 抗原血症検査が陽性化しない場合,陽性細胞数と病勢が一致しない場合がある.
- 明らかな CMV disease 症状(発熱,他の臓器症状)が発症した際にも必ず眼底検査を行う.
- 移植後 1 年は定期的な検査が必要である(AST ガイドライン)
- 発症は移植後 1 カ月~4 年(平均 1 年)で,1 年以後の発症も報告されており定期経過観察が望ましい
<耐性 CMV の遺伝子解析>
- 長期 GCV 治療継続・不適切な治療による耐性獲得が報告されている
- 頻度は数%~10%である(臓器・地域によりさまざま)
<治療薬>
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D+/R-,ATG 投与群などの高リスク群では,早期投与だけではな予防投与が行われている
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高度な顆粒球減少症には,G-CSF の投与も考慮すべきである .
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重症感染症に対しては,最初から免疫抑制薬の減量を考慮すべきである
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わが国においては,小児における VGCV の安全性は確認されていないのでGCV の静脈内投与を行うべきである
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わが国で施行された無作為化,非盲検,実薬対照,2 期クロスオーバー,多施設共同試験によれば,発現率の高い副作用としては,肝機能異常 3 例(7.9%),白血球数減少 2 例(5.3%),汎血球減少症 2 例(5.3%),倦怠感 2 例(5.3%),上腹部痛,胃不快感,肺真菌症,好中球数減少,低蛋白血症,発疹各 1 例(2.6%)であった.
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また,初期治療期間における重篤な有害事象は 3 例 3 件で,白血球数減少 2 件(5.3%),好中球数減少 1 件(2.6%)であった
早期投与法(preemptive therapy):
抗原血症法による検査を行い,陽性であった場合 VGCV450~900mg/ 日を投与する(腎機能により投与量,投与 間隔を決定する).抗原が 2 回つづけて陰性になるまで投与継続する.耐性化を防ぐため最低でも 2 週間継続する.わが国で広く採用されている方法である .
予防投与法(prophylactic therapy):
CMV 感染の有無に関わらず,予防を目的として投与する .100 日間の継続投与が必要とな る
<CMV 感染症の治療>
<参考文献>
Clin Exp Rheumatol. 2014 May-Jun;32(3 Suppl 82):S73-5. Epub 2014 May 16
「レジデントのための感染症診療マニュアル」
「腎移植後 サイトメガロウイルス感染症の診療ガイドライン」
ウイルス 第 60 巻 第 2 号,pp.209-220,2010